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2025-01-04

ギャルリー宮脇

写真:松村芳治
※高橋勝
  

ギャルリー宮脇


 設立50周年を迎える京都のアートギャラリーの老舗、ギャルリー宮脇のリノベーションプロジェクトである。
ギャルリー宮脇は半世紀まえの1973年、初代画廊主の依頼により臼倉健之の設計で建築されている。この建物の為に誂えた18センチ角の外装タイルの比例による厳格な寸法体系をうかがわせる高さ約18mの直方体ボリュームは建設当時、寺町二条の美術・骨董の街に相当なインパクトをもって現れた事は容易に想像できる。 南面に整然と並んだ柔らかなサイクロイド曲線状のアーチの付いた開口部も、タイルのグリッドに組み込まれ整然と並ぶ様は2階以上のボリュームをより厳格な幾何学の中にまとめ上げる効果を感じるのである。
しかし、50年という歳月を積み重ねそこにあり続けたギャルリー宮脇の建築は、大きな銀杏の街路樹のある歩道の向こうに佇み、不思議とすっかり通りに馴染んでいる様に見える。それは厳格なはずのタイルや張り石の時を重ねた表情が醸す柔らかさからなのかもしれないし、半世紀以上続けられた画廊の活動や訪れる人々がそう感じさせているのかもしれない。
展示空間は寺町通に大きく開き、道路からも良く見える。その奥に見える悩ましい曲線の螺旋階段が放つ上階への誘いには抗しがたい。 ただ、50年の時間を経た内部空間は空調や照明の設備技術の変革等に迫られた場当たり的な対応の積み重ねで創建当時の鋭い雰囲気は徐々に減退したのだろうと思われた。 改修の手がかりを模索している時、ギャルリー宮脇の審美の礎は「美術には古い(既知の)ものと新しい(未知の)ものが連続して共生しているべきであり、また、創造とは生への根源的な欲求が基盤にあるものだという考え」であるという事を知った。 であれば、改修の方針は、画廊主とともに積み重ねてきた半世紀の時間を引き継ぎつつ、新たな50年を生きるための何かを共生させる事を思惟し、会話を重ね進めようと考えた。 まず第一に、アートや展示空間を守るために屋根・外壁からの漏水をとめた。数か所のタイルが割れていたが、幸い画廊主が竣工時から引き継がれたオリジナルのタイルを数枚取っておかれていたものを使い、竣工時の姿をほぼ完全に残す事が出来ている。
屋外サインは新たにしたが、時間を積み重ねる事が出来る材料(コルテン鋼、亜鉛メッキ鋼板など)を採用した。 1階から3階の展示空間は画廊主との会話を深めながら進めた。


 現れてくる物質を、コンクリート、鉄、木、布に限定し、経年変化のないイミテーションの材は排する方向に収斂していき、新たな時を素材が刻んでいく空間となった。 その際、新しくせず既存を削り現した部分もある。 悩ましい曲線の螺旋階段の壁は既存の布クロスを取り去り、丁寧に洗うと現れた50年前のコンクリート面をそのままで仕上がりとしている。 50年前からここにあり続けた壁が現れ、全く新しい景色をつくっているのである。 メスアンカーを無数に埋め込む事でフレキシブルな展示が可能な新たな壁が生まれた。 アンカー位置は一見不規則に見えるが、画廊主が自身の身体性や経験をもとに数日をかけて決定し、まさに画廊主の身体と一体になった新たな階段展示スペースとなっている。



 ギャルリー宮脇が扱うアートは独自性が強く非常に多様である。柔軟な展示形態や照明計画に対応させるため、天井は無垢の杉角材を使った格子による仮想天井を採用した。 これにより、空調、音響、セキュリティ等々諸々の設備機器の存在を消しつつ、ライティングダクトを格子の間に配し柔軟な照明計画を実現し、さらにコンクリート躯体から直接吊るせるワイヤーにより、展示空間中央に物体を浮かせるような展示も可能になっている。今回の改修で初代と臼倉氏が創造した精神を引き継げているかは分からない。しかし、今の画廊主が引き継いだギャルリー空間の‘芯を現わす’作業は行えたのではないだろうか。その事がこれからの時間を紡ぐ一助足りえている事を期待している。

概要
所在地:京都市中京区
構造規模:RC造地下1階地上5階
改修部延床面積:116.15 ㎡
竣工:2023
設計監理:高橋勝建築設計事務所
施工:外装 山﨑工務店
内装 山田工務店

ギャルリー宮脇HP
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