写真:山田 圭司郎
時間を積み重ね、手を入れ続ける茅葺の古民家を集える地域の活動の場に育てていく。
春秋山荘は明治3年に滋賀県の旧木之本町に建てられた茅葺民家である。昭和54年に現在地(京都市山科区安朱稲荷山町6 https://www.instagram.com/syunjyusansou/?hl=ja)に移築されてた、土間境に大国柱を建てず大きな板間を設ける余呉型民家である。長年、蕎麦屋やギャラリーに使われた後現在の持ち主にわたり、
・西念寺こども園と山科幼稚園の子どもたちが過ごす「たけのこ山 森のこども園」の保育室
・写真展や絵画展、コンサートやワークショップなど文化交流や自然体験ができる開かれた空間
・地域山林整備の拠点
として活用することを目的に全面的な改修(耐震改修、茅野吹替、内装、設備まわり、一部外構工事)が行われた。
仲間が集える場所に設える
南側の開けた風景をより多く取り込むため濡縁を広げ、袖壁を排している。
また、改修の際、山荘運営者がこだわったのは山荘の積み重ねてきた時間の雰囲気や空気感を守りながらの温熱環境や照明計画をどう整備するかという事であった。
中でも、温熱環境は古民家の性質上断熱性や気密性には期待できず、かといって安易に強力な石油ファンヒーターを複数設置するという手段は避けたかった。
また、既存の囲炉裏は子供たちの保育室としての機能を考えると運用は難しく床板で蓋をする事となった。 そこで比較的安全で情緒豊かな薪ストーブを設置し、暖を取りながら人が集える計画としている。
薪ストーブを土間奥に設置し、周囲を腰かけで取り囲む配置とし、輻射熱を享受しながら寒い季節も気の合う仲間で夜長の会話を楽しめるような親密な場所となるよう意図した。 設置の際、可燃建材である茅で葺いた屋根は防火の観点から煙突で排煙を処理するのではなく、煤除去装置を利用し一切の延焼危険性を排除している。
照明計画は目立たない小さなスポットライトの適所配置による調光調色を様々に無線で制御できる方式とし、写真展やコンサート、ワークショップや地域の寄り合い等様々な使い方に対応できるようにしている。
全体的には既存の古民家は骨格の要素だけで十分力のある空間であり、意匠方針としては慎重に余計な物を省いていく、新たに設える物も馴染ませていく事が殆どの作業となった。
概要
所在地:京都市山科区
構造規模:木造地上1階
延床面積:147 ㎡
竣工:2023年
設計監理:高橋勝建築設計事務所
構造アドバイス:能戸謙介(アトリエSUS4) 島津陽慎(HARU建築設計室)
施工:竹内工務店
第六回 囲炉裏・薪ストーブのある暮らしデザインコテンスト最優秀賞